前編・仙台牛としてこの世に生を受ける子牛はいないって本当!?その真相を徹底調査

2020.12.17

仙台が誇るブランド牛といえば「仙台牛」だ。

松坂牛や神戸牛などの有名ブランドも出る牛肉の全国大会、いわゆる“日本一の牛肉を決定する大会”では、この4年間で3回もチャンピオンに輝くなど、間違いなく国内トップレベルの肉質を誇る。

しかし、仙台牛を知らない人はいなくても、「仙台牛としてこの世に生を受ける子牛は1頭たりともいない」という事実は、じつはあまり知られていない。は?

そこで、子牛が仙台牛になるまでの過程を2回にわたって追うとともに、仙台でリーズナブルに仙台牛が食べられる店舗を取材した。全3回のうちの1回目は、仙台牛になるための子牛が取引されるセリの様子をレポート。

意外と知らなかった仙台牛のあれこれが分かって、実に興味深い取材だった。

まずは「繁殖農家」が10ヶ月ほど飼育

仙台牛から生まれた子牛が仙台牛になる——こんな簡単な話ではない。

仙台牛銘柄推進協議会のHPで仙台牛について調べてみると、繁殖農家(子牛生産農家)が10ヶ月ほど育てた子牛を肥育農家がセリなどで購入。肥育農家が2年間丹精込めて肥育(食用にするために肉量を増やすこと)する。

その後、食肉市場に出荷されて「霜降りと赤身のバランス、きめの細かさなど厳しい基準をクリアし、最高ランクに格付けされた牛肉だけが『仙台牛』の称号を得ることができます」とのこと。

いまいちよく分からないので、子牛のセリが開催されている「みやぎ総合家畜市場」に足を運んだ。

みやぎ総合家畜市場の外観

遠田郡にある「みやぎ総合家畜市場」へゴーゴゴー!

話を伺ったのは、JA全農みやぎの畜産部・生産販売課の熱海幾哉(あつみ・いくや)さん。

熱海さん、よろしくお願いします!

——さっそくですが、仙台牛としてこの世に生まれてくる子牛はいないって本当ですか?

熱海さん
熱海さん
本当です。

——じゃあどうやったら仙台牛になれるんですか?

熱海さん
熱海さん
まずは、繁殖農家さんが黒毛和種の子牛を10ヶ月ほど育てます。

白黒模様ではなく黒毛の単色で、ツノやひづめに至るまで黒いのが特徴

——松阪牛や神戸牛、米沢牛なども黒毛和種ですね。

熱海さん
熱海さん
そうですね。繁殖農家さんのほうで10ヶ月ほど育てた子牛がセリにかけられ、肥育農家さんが落札します。

——そのセリが今日行なわれているわけですね。

熱海さん
熱海さん
はい。中に入ってセリの様子をご覧になりますか?

——ぜひ、お願いします!

みやぎ総合家畜市場の「子牛市場」を見学

毎月3日にわけて開催されているみやぎ総合家畜市場の「子牛市場(セリ)」。実際に場内を見学させてもらったので一部始終をレポート!

——思ったよりも参加している繁殖農家の数が多いですね。

熱海さん
熱海さん
ざっと200人くらいはいると思います。いつもはもっと多いんですが、新型コロナウイルスの影響で少し減ってますね。

いつもは隙間なく席が埋まっているそう

——セリにかけられている子牛が、繁殖農家によって10ヶ月ほど育てられた子牛ですよね。子牛とはいえ、思ったより大きいんですね。

熱海さん
熱海さん
メス牛で300キロ、オス牛だと350から400キロある牛もいます。

成人男性と比較するとこれくらいの大きさ。でかい

——1日どれくらいの子牛が取引されるんですか?

熱海さん
熱海さん
そうですね。だいたい400〜450頭くらいです。なので、3日間で1200〜1300頭くらいの子牛がセリにかけられています。

脇で子牛が待機している

次から次へと取引されていく

——そんなに多くの子牛が取引されてるんですね。

熱海さん
熱海さん
頭に「3167」と札が貼られていますよね。あれは、“3日目の167頭目”という意味なんです。

よ〜く見ると、頭の緑の札に「3167」と書いてある

——1頭あたりどれくらいの金額で落札されるんですか?

熱海さん
熱海さん
いまだとだいたい70万円前後ですね。今日の現時点だと、メス牛で平均66万6000円、オス牛で63万6000円で取引されています。

下の段の黄色い数字がその日の平均落札額

——テレビでよく見るマグロのセリみたいに、掛け声が飛び交う感じではないんですね。買いに来た人たちはどうやって入札してるんですか?

熱海さん
熱海さん
机にボタンが設置されているんです。そのボタンを最後まで押し続けた人が落札するシステムになっています。

35万円からセリがスタート

37万6000円に上がった(!)

現在45万5000円。入札金額が1000円ごとにどんどん上がっていく

50万円を超えたら、緑のランプが黄色に切り替わった

——入札金額の上の緑や黄色に光っているランプはなんですか?

熱海さん
熱海さん
ボタンを3人以上押している、つまり3人以上が入札していると緑に光って、2人に減ったら黄色に変わるんです。

66万4000円で落札!

——こうやってセリにかけられるんですね。正直、素人にはどの牛も同じように見えるんですが、ここに来ている肥育農家たちは入札する子牛をどうやって選別してるんですか?

熱海さん
熱海さん
名簿にその日セリにかけられる牛の血統や生産者などが事こまかに載ってるんです。それを見ながらなんとなく目星を付けたら、今度は実際に下見をするんですよ。

まずは名簿で目星をつけたら

自分の目で入念にチェックする

熱海さん
熱海さん
肩のつき方や骨格はもちろんですが、餌を食べないと子牛は大きくならないので、口や顔の大きさなどから今後、成長しそうかなどという点を総合的に見て判断しています。

成長した分だけ肉量が増えるので、将来性も踏まえて入札する子牛を決める

熱海さん
熱海さん
あとは、血統やどの繁殖農家さんが育てたかという点も重要なポイントになります。人気の血統や名人レベルの繁殖農家さんが育てた子牛だと入札数も増え、落札額が上がる傾向にあるんです。

——肥育農家さんたち、1頭落札されるたびに名簿に何かメモしていますね。

名簿を見ながら何やら書き込んでいる

熱海さん
熱海さん
落札された金額をメモしてるんです。血統や繁殖農家さんによって落札額も変わってくるので、相場がなんとなく分かりますから。次回のセリに向けての準備みたいなものですね。

——なるほど〜。多い肥育農家さんで何頭くらい落札して帰るんですか?

熱海さん
熱海さん
なかには、1日でセリにかけられる1200頭のうち100頭近く落札して帰る人もいます。

——そんなに多いんですね。落札した子牛はそのまま持ち帰られるんですか?

熱海さん
熱海さん
そうですね。セリが終わったら自分のトラックに子牛を乗せて持ち帰ります。

落札された子牛が別の小屋で待機中

セリで落札した子牛を肥育農家が20ヶ月ほど肥育

いま見せてもらった子牛市場は、あくまでも仙台牛になりうる子牛を取引する場所。では、この後どのような流れを踏んで仙台牛の称号を手に入れるのだろう。

熱海さん
熱海さん
ここで落札した子牛を、今度は肥育農家さんたちが20ヶ月ほど育てます。

——それでやっと仙台牛の称号を手に入れるんですね。

熱海さん
熱海さん
いえいえ、肥育農家さんが20ヶ月ほど育てたら屠畜(とちく:食肉用の家畜を殺すこと)され、肩の部分を切るんです。で、食肉の格付け員がその断面を見て、「これはA5ランク」「これはB4ランク」などと格付けするんです。

——ほぉ。焼肉店に行くと書かれているやつですね。

熱海さん
熱海さん
それです。仙台牛は最高ランクの5等級と評価された食肉だけを銘柄にしているのが特徴で、「A5」か「B5」に格付けされてはじめて「仙台牛」の称号を手に入れるんです。5等級だけを銘柄にしているのは全国的にも珍しいんです。

仙台牛の基準に「日本食肉格付け協会枝肉取引規格が『A-5』または『B-5』であり、本協議会が認めた市場並びに共進会等に出品したものとする」と書いてある

——「四大和牛」といわれる松坂牛や近江牛はどうなんですか?

熱海さん
熱海さん
松坂牛や近江牛などは3等級や4等級でも銘柄として認定していますね。

——ということは、仙台牛のほうがお肉のランク的には上なんですね。でもAとかB、5等級とか4等級って何が違うんですか?

熱海さん
熱海さん
牛肉の格付けにはふたつの基準があって、まずはA・B・C。そして、数字の5・4・3・2・1。これらを組み合わせてA5やB4などと格付けされるんです。

A5からC1まで、全部で15ランクある

熱海さん
熱海さん
A・B・Cから説明すると、骨や内臓、皮などを取り除いた肉を「枝肉」というんですが、この枝肉の割合が多いほうが等級が高くなります。簡単にいうと、販売できるお肉の割合が高ければA、低ければCといった感じです。

——なるほど〜。たとえば、同じ体重の牛でも枝肉が多いほうが等級が高い、ということですね。

熱海さん
熱海さん
そうなります。で、5とか4とか3ですが、これはサシと言われる脂身が多ければ多いほど等級が高くなるんです。このサシをメインに、「肉の色」や「肉のキメや締まり」など、総合的に判断して決めています。

白い部分がサシ

——サシって、お高いお肉にある白い脂身の模様のことですね。

熱海さん
熱海さん
はい。

——ということは、A5もB5も肉質に関しては同じってことですか?

熱海さん
熱海さん
おっしゃる通りです。枝肉の割合によってAやBなどの3段階に格付けされるので、A5もB5も肉質には変わりありません。

「仙台牛」の称号を手に入れられるのは全体の半分だけ

仙台牛の称号を手に入れるには最高ランクの「A5」もしくは「B5」に格付けされる必要がある。

——でも、それだけ基準が高いと、さっき見学させてもらったセリで落札しても仙台牛の称号を手に入れられないこともあるってことですよね?

熱海さん
熱海さん
そうですね。仙台牛になるのは5割程度。なので、ここで競り落としても残りの半分はA4やA3などと評価され、仙台牛にはなれないんです。

——ほぉ。70万円前後で競り落としても仙台牛になるのは半分だけなんですね……。

熱海さん
熱海さん
そうなんですが、仙台黒毛和牛というサブブランドがあって。3等級や4等級の場合、仙台黒毛和牛と称されます。仙台牛よりも霜降りは劣りますが、味はひけをとらないほどおいしいです。

表にするとこんな感じ

仙台牛は国内トップのブランド牛

繰り返しになるが、仙台牛になるには繁殖農家が10ヶ月ほど育て、その後、肥育農家がセリなどで落札して20ヶ月ほど育てる。

しかし、それだけで仙台牛の称号を手に入れられるわけではなく、最高ランクの「A5」もしくは「B5」に格付けされてはじめて「仙台牛」の称号を授与されるのだ。

ほかのブランド牛は「A3」や「B4」なども銘柄として認められるので、5等級に限定している仙台牛は国内トップのブランド牛といえる。

続く第2回目の記事では、セリで子牛を落札した肥育農家のその後に迫る。宮城県がいかに品質の高いブランド牛を育てるのに適しているのかなどを詳しくレポートする。

取材協力
・JA全農みやぎ
・住所:宮城県遠田郡美里町北浦字生地22-1
ホームページ
仙台牛銘柄推進協議会

この記事を書いた人

幸谷亮

幸谷亮

仙台が大好きすぎて「だてらぼ」を立ち上げたひと。雑誌編集部→雑誌編集部→2016年に独立。雑誌編集部時代に身につけた取材力を武器に、みなさんの気になるネタを全容解明します。

関連記事