前編・仙台牛としてこの世に生を受ける子牛はいないって本当!?その真相を徹底調査
仙台が誇るブランド牛といえば「仙台牛」だ。
松坂牛や神戸牛などの有名ブランドも出る牛肉の全国大会、いわゆる“日本一の牛肉を決定する大会”では、この4年間で3回もチャンピオンに輝くなど、間違いなく国内トップレベルの肉質を誇る。
しかし、仙台牛を知らない人はいなくても、「仙台牛としてこの世に生を受ける子牛は1頭たりともいない」という事実は、じつはあまり知られていない。は?
そこで、子牛が仙台牛になるまでの過程を2回にわたって追うとともに、仙台でリーズナブルに仙台牛が食べられる店舗を取材した。全3回のうちの1回目は、仙台牛になるための子牛が取引されるセリの様子をレポート。
意外と知らなかった仙台牛のあれこれが分かって、実に興味深い取材だった。
まずは「繁殖農家」が10ヶ月ほど飼育
仙台牛から生まれた子牛が仙台牛になる——こんな簡単な話ではない。
仙台牛銘柄推進協議会のHPで仙台牛について調べてみると、繁殖農家(子牛生産農家)が10ヶ月ほど育てた子牛を肥育農家がセリなどで購入。肥育農家が2年間丹精込めて肥育(食用にするために肉量を増やすこと)する。
その後、食肉市場に出荷されて「霜降りと赤身のバランス、きめの細かさなど厳しい基準をクリアし、最高ランクに格付けされた牛肉だけが『仙台牛』の称号を得ることができます」とのこと。
いまいちよく分からないので、子牛のセリが開催されている「みやぎ総合家畜市場」に足を運んだ。
話を伺ったのは、JA全農みやぎの畜産部・生産販売課の熱海幾哉(あつみ・いくや)さん。
——さっそくですが、仙台牛としてこの世に生まれてくる子牛はいないって本当ですか?
——じゃあどうやったら仙台牛になれるんですか?
——松阪牛や神戸牛、米沢牛なども黒毛和種ですね。
——そのセリが今日行なわれているわけですね。
——ぜひ、お願いします!
みやぎ総合家畜市場の「子牛市場」を見学
毎月3日にわけて開催されているみやぎ総合家畜市場の「子牛市場(セリ)」。実際に場内を見学させてもらったので一部始終をレポート!
——思ったよりも参加している繁殖農家の数が多いですね。
——セリにかけられている子牛が、繁殖農家によって10ヶ月ほど育てられた子牛ですよね。子牛とはいえ、思ったより大きいんですね。
——1日どれくらいの子牛が取引されるんですか?
——そんなに多くの子牛が取引されてるんですね。
——1頭あたりどれくらいの金額で落札されるんですか?
——テレビでよく見るマグロのセリみたいに、掛け声が飛び交う感じではないんですね。買いに来た人たちはどうやって入札してるんですか?
——入札金額の上の緑や黄色に光っているランプはなんですか?
——こうやってセリにかけられるんですね。正直、素人にはどの牛も同じように見えるんですが、ここに来ている肥育農家たちは入札する子牛をどうやって選別してるんですか?
——肥育農家さんたち、1頭落札されるたびに名簿に何かメモしていますね。
——なるほど〜。多い肥育農家さんで何頭くらい落札して帰るんですか?
——そんなに多いんですね。落札した子牛はそのまま持ち帰られるんですか?
セリで落札した子牛を肥育農家が20ヶ月ほど肥育
いま見せてもらった子牛市場は、あくまでも仙台牛になりうる子牛を取引する場所。では、この後どのような流れを踏んで仙台牛の称号を手に入れるのだろう。
——それでやっと仙台牛の称号を手に入れるんですね。
——ほぉ。焼肉店に行くと書かれているやつですね。
——「四大和牛」といわれる松坂牛や近江牛はどうなんですか?
——ということは、仙台牛のほうがお肉のランク的には上なんですね。でもAとかB、5等級とか4等級って何が違うんですか?
——なるほど〜。たとえば、同じ体重の牛でも枝肉が多いほうが等級が高い、ということですね。
——サシって、お高いお肉にある白い脂身の模様のことですね。
——ということは、A5もB5も肉質に関しては同じってことですか?
「仙台牛」の称号を手に入れられるのは全体の半分だけ
仙台牛の称号を手に入れるには最高ランクの「A5」もしくは「B5」に格付けされる必要がある。
——でも、それだけ基準が高いと、さっき見学させてもらったセリで落札しても仙台牛の称号を手に入れられないこともあるってことですよね?
——ほぉ。70万円前後で競り落としても仙台牛になるのは半分だけなんですね……。
仙台牛は国内トップのブランド牛
繰り返しになるが、仙台牛になるには繁殖農家が10ヶ月ほど育て、その後、肥育農家がセリなどで落札して20ヶ月ほど育てる。
しかし、それだけで仙台牛の称号を手に入れられるわけではなく、最高ランクの「A5」もしくは「B5」に格付けされてはじめて「仙台牛」の称号を授与されるのだ。
ほかのブランド牛は「A3」や「B4」なども銘柄として認められるので、5等級に限定している仙台牛は国内トップのブランド牛といえる。
続く第2回目の記事では、セリで子牛を落札した肥育農家のその後に迫る。宮城県がいかに品質の高いブランド牛を育てるのに適しているのかなどを詳しくレポートする。
この記事を書いた人
幸谷亮
仙台が大好きすぎて「だてらぼ」を立ち上げたひと。雑誌編集部→雑誌編集部→2016年に独立。雑誌編集部時代に身につけた取材力を武器に、みなさんの気になるネタを全容解明します。