【仙台ブックカフェ探訪記】マゼランで、コーヒーを片手に落ち着いた読書タイムを過ごす

本のある人生は素敵だ。ページをめくるたび新しい発見があり、今いるこの場所とは違う、どこか別の世界へと連れていってくれる。

では、おいしいコーヒーは? 鼻に抜ける芳しい香り。時に癒やしを、時にエネルギーをくれる、忙しい現代人にとって頼もしい存在だ。

そんな本とコーヒーを、いっしょに楽しめるブックカフェ「書本&cafe magellan」(以下、マゼラン)が、青葉区春日町にある。どんな本を取り扱っているのか、こだわりのブレンドコーヒーをはじめとしたメニュー、店での過ごし方などを取材した。

仙台法務局から徒歩すぐ。「古本とコーヒー」の看板を目印に

マゼランの住所は仙台市青葉区春日町7-34。仙台法務局のすぐそば、晩翠通沿いという立地だ。2007年7月にオープンしてから、ずっとこの場所で営業を続けている。

店舗は、道路より少し奥まったところにある。定禅寺通側から来る場合は、犬がちょこんと顔を出すように置かれている「古本とコーヒーあります。」の看板が目印だ。

法務局側から来ると「本、お売り下さい。」

奥に見えるのが店舗入り口。晴れた日には、店前にまで本が並ぶ。

取材時は数名のお客が訪れていた

今回お話を伺ったのは、マゼランのオーナー高熊洋平(たかくま・ようへい)さん。

高熊さん、よろしくお願いします!

ジャンルいろいろ!8000冊の本がずらり

――ものすごい数の本ですね。何冊くらいあるのですか?

高熊さん
高熊さん
店に出しているのは、8000冊ほどでしょうか。店裏の倉庫に保管されている本も合わせると、2倍以上になると思います。

――8000冊も! 多種多様な本がありますが、とくに多く取り揃えているジャンルはありますか?

高熊さん
高熊さん
常連のお客さまから要望の多い、美術関係や哲学、思想関係は切らさないようにしています。でも、そればかりではありません。「まちの古本屋」であり続けたいと思っているので、基本的には偏りなくさまざまなジャンルを置いています。

――「まちの古本屋」?

高熊さん
高熊さん
とくに専門的にならず、特定の趣味に偏ることもなく、いろいろな人が出入りするこぢんまりとした古本屋のことですね。

美術関連の棚。画集も多く、文字が読みにくくなった高齢のお客からも人気だそう

ライフスタイル系の棚には、手芸や料理、ファッション関連の本などが並ぶ

高熊さん
高熊さん
興味関心に従って店に入ったのに、つい別のジャンルが気になって手に取っちゃった。……という展開が、個人的には理想なんですよ。

――哲学の本を見にきたのに、編み物の本を買っちゃった、みたいな。

高熊さん
高熊さん
そうですね。ですからなるべく、どんな方にも楽しんでいただけるように陳列しています。

歴史を感じる「吾輩は猫である」

味のある書体!キュンとくる

高熊さん
高熊さん
小説や絵本は気軽に手に取りやすいからか、人気があります。

絵本のラインナップも豊富なので、子連れ客も多く来店する

――本はどのように仕入れているんですか?

高熊さん
高熊さん
ほとんど、お客さまからの買い取りです。そのため人気が高く、世の中に出回っている本が集まりやすいですね。最近の小説だと、宮部みゆきや東野圭吾など。

――店内だけでなく、外にも本が置かれていますね。

高熊さん
高熊さん
はい。道路側には、50円~100円の廉価な本を、店側には比較的読み心地がライトな本を置いています。

外の本は50円から。掘り出し物を見つけよう

SNSで話題の作家による漫画もある

高熊さん
高熊さん
散歩の途中や昼休みにちょっと寄って外の本をパラパラ眺めていく人が結構います。読みやすさ、手に取りやすさを重視して配置しています。

ちなみに、値札はここ。裏に挟まっているので覚えておこう

「古本屋に合うブレンドコーヒー」を提供する本格派

――ドリンクメニューについて教えてください。

高熊さん
高熊さん
コーヒーと紅茶を用意しています。コーヒー豆は、開店前からおつき合いのあったCafe de Ryuban(カフェ・ドゥ・リュウバン)さんから取り寄せていて、注文が入ってからドリップしてお出しします。

本を購入すると50円引きになるセットメニューも。「きょうのおかし 」は200〜300円くらい

――とくに人気のドリンクは?

高熊さん
高熊さん
ブレンドコーヒーですね。当店では浅煎りの、爽やかな風味を楽しめる豆を使っています。リュウバンさんに「古本屋さんで出すなら、目が覚めるような味わいがいいのでは」とアドバイスをいただいて、これに決めました。実際に店で出したら好評で、開店時からずっと使い続けています。

――「きょうのおかし」とは?

高熊さん
高熊さん
焼き菓子つばめどうさんのクッキーです。動物や果物などの形をしたかわいいクッキーを多数販売していて、ファンも多い焼き菓子工房ですよ。当店ではいつも3種類置いていて、毎月第2、第4金曜日の夕方に新しいクッキーが届きます。クッキーによって値段が異なるので、「200~300円くらい」としています。

12月某日のラインナップ。左から、クリスマスツリークッキー(330円)、おうちスパイスクッキー(270円)、オートミールとレーズンのクッキー(300円)

クッキーを目当てに来るお客もいるのだとか

コーヒーだけ、もOK!過ごし方はそれぞれ

――どのようなお客さんが多いですか?

高熊さん
高熊さん
40代以上のお客さまが多いですが、学生さんや20代の若い人もちらほら見えます。必ず見る棚が決まっている常連さんもいれば、ひと通り棚をチェックする人、散歩ついでに寄って外の本だけ眺めていく人……それぞれですね。毎年大晦日だけ来る、なんてお客さまもいらっしゃいますよ。

カウンターが2席

ソファが4席あり、詰めれば6名まで座れる

高熊さん
高熊さん
店での過ごし方としては、本だけを見に来る人が一番多くて、次が本を読みながらドリンクを注文される人。なかには、コーヒーだけ飲んで帰る、というお客さまもいらっしゃいます。テイクアウトも承っていますよ。

らくがきから生まれた犬のマスコット

――子どもの頃から本が好きだったのですか?

高熊さん
高熊さん
いえ、本を積極的に読むようになったのは高校生の頃からです。大学受験の勉強がつらすぎて読書に現実逃避したら、のめり込むようになって。大学卒業後は、図書館司書として働き始めました。

――そこから、ブックカフェに興味を持つようになったのは?

高熊さん
高熊さん
2000年頃から、巷でブックカフェが注目されるようになったからです。仙台に、book cafe 火星の庭さんができたのもその頃ですね。図書館を辞めた後5年ほど、古本屋や飲食店でアルバイトをしながら開店準備を進めました。

――開店に向けた修行期間、ということですね。マゼランという店名の由来は?

高熊さん
高熊さん
実は、特別な意味はないんです。当初決めていた名前を修験者(しゅげんじゃ)のかたに見てもらったら、「その店名じゃすぐに潰れるぞ」と言われてしまって(笑)。結局、そのかたがつけてくれたマゼランに決めました。

――店の内外に犬のマスコットキャラがたくさんいるので、 勝手に、飼い犬の名前なのかと思っていました!

高熊さん
高熊さん
よく言われるんですが、全然違うんですよ。ぼく、ペットアレルギーで動物を飼ったこともありません。この犬の絵も、なんとなく描いたらくがきでした。でも不思議と好評で、看板にも描いてみて。なんてやっていたら、いつの間にか増殖してしまいましたね。

この犬、なんと、名前はまだない

似た犬を見つけたお客が買ったり、手作りしたりして持ってくるのだそう

「本を選ぶ」という遊び方

――高熊さん流の「本の選び方」を教えてもらえませんか?

高熊さん
高熊さん
ぼくの場合は、ふらりと古本屋に入って棚を眺めていると、ふっと「あ、どこかで聞いたことあるな」って情報が去来するんです。本のタイトルだったり、著者名だったり。それに導かれるように手に取ってみる。

――すると、自分の好きな系統の本と出会える?

高熊さん
高熊さん
とも限らなくて、実際に読んでみると、イメージと全然違っていることも結構あるんです。要は、勝手に自分が色眼鏡で見ているんですよね。でも、なんとなくで手に取ってみた本が意外と自分に深く関わる内容だったりして、そこからまた知見が広がっていくこともあります。目的なく本を探すときは、そういう遊び方、選び方をしていますね。

「プーさん」に惹かれて見たら、その隣に『老いてこそ生き甲斐』。これぞ古本屋さんのおもしろさだ

――本を選ぶという遊び、とても素敵ですね! 今、紙の本が売れない、まちの小さな書店が閉業するなどの話が多く聞かれますが、実感としてどうでしょうか。

高熊さん
高熊さん
紙と電子、どちらも読むというお客さまはいますし、時世柄、避けようがないことだと思います。将来的に、紙の本の生産コストが消費に対して割に合わないとなれば、全部電子化するんだろうなと。でも、それまでは紙と電子、選べるわけですよね。選べる期間はとても貴重ですから、できるだけ長く、楽しく過ごしたいと思っています。

――紙の本には紙の本なりの魅力がありますよね。

高熊さん
高熊さん
本は自分のペースで読めるからいいですよね。ぼくは文庫本をまるめて読む癖があるのですが、このとき手にかかる負荷が心地いいんです。きりのいいところに親指を挟んで読み進めていくと、物理的に残りのページが確認できますよね。その「読んでいる感」が楽しいです。

「残りはあとどれくらい」を触れて感じられるのも、紙の本の醍醐味

これからも、地域とつながり地域に溶け込む「まちの古本屋」として

――オープンから16年が経過しました。今後の展望は?

高熊さん
高熊さん
まちの古本屋として、まちに溶け込む存在でい続けたいですね。垣根低く、いろいろな人が出入りする場所でありたいです。

「まちの古本屋には文脈がある」という言葉がとくに印象的だった。マゼランに仙台ゆかりの本が集まるのは、まさにここが地元だから。デザインの本が集まるのは、この近隣に美術関係の仕事をしている人が多いから。つまり、その本がその古本屋さんに流れ着いたのはまったくの偶然ではなく、いろいろな条件が重なりつながって流れ込むのだ。

古本屋さんには無数の物語があり、ロマンで満ちあふれている。ぜひマゼランに足を運んで、この胸のときめきを体感してほしい。

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『書本&cafe magellan』
・住所:仙台市青葉区春日町7-34
・営業時間:10時00分~20時00分(土日のみ19時00分まで)
・定休日:火曜日
ホームページ兼オンラインショップ

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