【エイトブックス仙台】図書館なのに貸出なし!?新しい形の図書施設が八本松に誕生
2022(令和4)年8月27日、太白区八本松に民間企業が運営する図書施設「8BOOKs SENDAI(エイトブックス仙台)」がオープン。約1万冊の蔵書を揃えるが、貸し出しは行わない。
公共図書館とも書店とも違う、全国的にもめずらしい形態の図書施設……。なぜ仙台市に誕生したのか、その経緯やまちに対する思いなども含め、中はどうなっていて、どんな本があって、料金はどれくらいなのか? など気になるところを運営元の企業に取材した。
旧・七十七銀行八本松支店跡地にオープン
エイトブックス仙台が立地しているのは、旧・七十七銀行八本松支店のあった太白区八本松1丁目15-25。
JR長町駅東口から、徒歩10分ほどの場所にある。専用駐車場はないため、車で行く場合は近隣のコインパーキングを利用しよう。ちなみに駐輪場はあり。公共交通機関を利用しない場合は、自転車やバイクで行くことをおすすめする。
長町駅から東にまっすぐ歩くと、突き当たりの丁字路に現れたのが、どこか銀行時代の面影を残す建物――これが、エイトブックス仙台だ。
行政の運営する図書館とも、書店とも違う新しい形の図書施設とは、いったいどのような施設なのか。気になりつつ、施設内へと足を運ぶ。
出迎えてくれたのは、エイトブックス仙台の運営元である株式会社アイ・クルールの社員で、同施設のブランドビジョンプロデューサーも務める春木友栄(はるき・ともえ)さんだ。春木さん、本日はどうぞよろしくお願いします!
小説、漫画、実用書…コンセプトに合った本がジャンル問わず並ぶ
――中に入って驚きましたが、天井が高いので広くて開放的ですね。それに視界一面の本棚……本好きの人には、間違いなくテンション爆上がりの空間です! ……ということで取り乱しましたが、さっそくエイトブックス仙台がどのような施設なのかを教えてください。
「仙台市に本社を置く、株式会社アイ・クルールが運営する会員制の図書施設です。蔵書は1万冊ほどで、貸し出しは行わずに館内で自由に読んでいただくシステムとなっています」
――民間企業が図書施設を運営するのは、全国的にもめずらしいと伺っています。その経緯については後で伺うとして、蔵書についてもう少し詳しく教えてください。
「エイトブックス仙台の蔵書は、『なりたい』『触れる』『気づく』『表現する』『つながる』『参加する』『続く』『このさきも仙台に』の、全部で8つのコンセプトに分けられています」
――だから「エイトブックス仙台」という名称なのですね。
「はい。ほかにも、『ここが八本松だから』『以前が七十七銀行だったから、次はそのひとつ上をいく8という数字にこだわりたいから』という意味も込められています。1階には『なりたい』から『参加する』までの6つ、2階には『続く」と『このさきも仙台に』の2つのコンセプトに沿った本が、ジャンルを問わず並んでいます」
――ジャンルを問わずとは?
「小説があれば実用書があったり、その隣には漫画があったり……というように、普通の書店では見ないこだわった並べ方をしています」
――なぜそのような並べ方にしたのですか?
「書店のようにジャンルごとに並んでいれば、ご自身の読みたい本はおそらく見つかると思います。ですがそれとは違い、エイトブックス仙台は普段出会わないような本との出会いを楽しんでいただく空間としてつくりました」
「そういう意味で、私たちはこの場所を『おせっかいなライブラリー』と呼んでいます。受付時にお渡ししているしおりも、出会いを楽しんでほしいという思いが込められたものの1つです」
「エイトブックス仙台では本の貸し出しを行っていないので、読んでいる途中の本にはこのしおりを挟んでいただき、また次に来たときに続きから読んでいただく仕組みになっています。しおりの裏面にはSNSのアカウントなどを書く欄を設けているので、同じ本を読んだ人同士がしおりをきっかけに仲良くなる……なんて素敵な偶然が生まれれば嬉しいですね」
――しおりから始まる出会い、素敵ですね。なんとなく、学生の頃の図書カードを思い出します。
「そうですよね。また、映画『耳をすませば』を思い出すね、ってお声もよくいただきますよ」
――8つのコンセプトである「なりたい」「触れる」「気づく」「表現する」「つながる」「参加する」「続く」「このさきも仙台に」はどのように決めたのでしょうか?
「本を手に取った人がステップアップしていけるようなメッセージを添えて考えました。自分が何かに『なりたい』と思ったら本や情報に『触れ』ますよね。それによって『気づき』を得て、そこから『表現』をしていく。表現によって誰かと『つながる』、何かに『参加する』ようになる。それがどんどん『続く』と、『このさきの仙台』がより良いものになっていく、というイメージです。私たちはこれを、“成長型のコンセプト”と呼んでいます」
――素敵なコンセプトですね。選書についてはどのように?
「ユニクロの社員専用オフィスライブラリーや、ブックホテル『箱根本箱』の選書をした日本出版販売株式会社(以下、日販)にお願いしました。日販さんは、東京六本木で入場料のある書店『文喫(ぶんきつ)』の選書も行っていて、本当に私たちの意向にぴったりの選書をしてくださいました。日販さんとの出会いがなければ、エイトブックス仙台はオープンできなかったと思いますね」
入場料金は、日額と月額の2通りから選べる
――料金体系について教えてください。
「年齢ごとに、日額と月額で入場料金を設定しています。たとえば大人の場合、日額が1300円で月額が3000円です」
──月額3000円はかなり安いですね。
日額 | 月額 | |
未就学児 | 無料 | 無料 |
小学生 | 500円 | 1000円 |
中・高校生 | 500円 | 1500円 | 大学生・専門学生 | 1000円 | 2000円 |
大人 | 1300円 | 3000円 |
「はい。しかもドリンクは、1人1杯まで無料です。プラス500円でフリードリンクにできますので、長く滞在される場合はご検討ください。ちなみに水筒やペットボトルなどの飲み物は、自由に持ち込んでいただけます」
――椅子やテーブルの種類が多いうえにおしゃれですね。
「座り心地、居心地の良さにこだわって、9社くらいのメーカーから取り寄せました。1つひとつ足や天板を変えて変化をつけるなどこだわっていますので、インテリアも楽しんでいただきたいですね」
――利用者にはどのような人が多いですか?
「0歳から80歳までの、幅広い年齢層の人が利用しています。とくに多い世代は、10代の若い子たちです。ひとりで来て勉強をしたり、友達と来ておのおの読書をしたりして過ごしているようですね。土日は、親子で来られる人たちが多いです」
――2階が子ども向けのスペースだと伺っています。
「1階とはまったく違う空間で、子どもが楽しめるフロアになっています。赤ちゃん用の読み聞かせの絵本から児童書など、0歳児から絵本を卒業したお兄さんお姉さんまで楽しめるラインナップを揃えています。また、親御さん向けに育児や離乳食の本なども置いています」
――この大きな絵本、手に取るだけで楽しい気持ちになりますね。我が家の子どもたちがもう少し小さかったら、週5で通って延々絵本を読み聞かせしてあげたかったです。
「ありがとうございます。定期的に親子で楽しめるイベントも開催しているので、たくさんの親御さん、お子さんにも来ていただきたいですね」
――2階のコンセプトは「続く」と「このさきも仙台に」でしたね。
「はい。『このさきも仙台に』の棚には、震災や宮城の歴史の本なども置いています。なので完全に子ども向けのスペースではなく、大人も利用していただけますよ」
なぜ、不動産業を営む民間企業が図書施設をつくったのか
――エイトブックスを運営する「アイ・クルール」は仙台市に本社を置き、宮城県を拠点に不動産やリノベーション関係の事業を行う企業ですよね。なぜ図書施設の運営をしようと思ったのでしょうか。
「ふたつあって、まずはアイ・クルールの成長に向けた新たな挑戦の場であること。いわゆるブランディングのひとつで、もうひとつは社会性を基軸にした、仙台・宮城の街、文化、学生、人々の発展に貢献するためです」
――そこから、図書施設の構想にどのようにたどり着いたのですか?
「弊社の代表取締役である石垣が、以前から『地域の人に寄り添えるメディアを作りたい」と考えていたんです。テレビや雑誌などよりももっと地域の人に近いところにあって、利用してもらいながら情報発信もできるような、そんな拠点を作りたいと。そうした思いを形にしたのが、ここエイトブックス仙台です」
――本を読む施設というだけでなく、情報発信も行っていくんですか?
「はい。エイトブックス仙台にはオンとオフの2つの顔があるんです。オフの顔が、この蔵書1万冊を備える図書施設。オンの顔が、メディアとして情報発信をしていく側面になります」
――どのような情報発信を考えていますか?
「いま、ちょうど動画コンテンツを作っているところです。具体的には、仙台・宮城に軸足を置きながら、今ある既存の経済や人、文化、学びなどをリブランディングしていくような動画コンテンツを発信していく予定です。エイトブックス仙台では学生が多く働いているので、彼ら学生チームとも協力しながら、ゆくゆくは学生と企業をマッチングするなど、就職活動を支援するようなコンテンツも作れればなと考えています」
地域のメディアとしての立ち位置を確立していきたい
――2022(令和4)年8月のオープンから数ヶ月が経ちましたが、今の時点でつかんでいる手応えなどはありますか?
「何かしらの展示や学習塾、育児に関する取り組みなどを行っている人たちから、『コラボして一緒に何かできないか』とお声がけいただく機会が少しずつ増えてきました。そういった活動について、エイトブックス仙台というメディアを介して発信していくことで、よりつながりが広がっていく予感がしています。今後も、そういったご縁を大切に育てていきたいです」
――今後の展望を教えてください。
「エイトブックス仙台が、まちの人たちや地域の真ん中にある存在でありたい、と思っています。『何かやってみたい』と未来のイメージを描いたときに、気づきを得たり方向性を定めたりするきっかけの場所になれたらいいなと。オンとオフ、2つの顔を使いながら、地域のメディアという立ち位置になっていきたいと考えています」
今後はますますInstagramやTikTokなどSNSでの情報発信に注力し、メディアとしての存在感を大きくしていきたいと意気込みを語ってくれた春木さん。さまざまなコンテンツの発信やイベントのお知らせなどが見られるため、興味のある人はぜひ公式アカウントをフォローしてほしい。
また、蔵書も今後少しずつ増える予定だ。11月は「紅葉」、12月は「一息」など、時期に合ったテーマを設けたり、スタッフや客のリクエストを聞いたりして選書する。オンの顔もオフの顔も、どのように変化していくのかを楽しみにしたい。
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・住所:仙台市太白区八本松1丁目15−25
・TEL:022-748-5781
・営業時間:9時30分~19時00分
・定休日:水曜日
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この記事を書いた人
岩崎尚美
仙台を拠点に活動するフリーライター。生まれも育ちもだいたい仙台です。仙台の魅力をお伝えするため、頑張ります!