仙台のミシュラン認定ラーメン店『だし廊』で、震えるような新しい食体験を
仙台は全国でも有数のラーメン激戦区だ。東北では随一と言ってもいいだろう。魚介どころゆえ、地の利を生かした魚介系ラーメンはもちろん、仙台味噌を使った味噌ラーメンもうまい。そのほかつけ麺、油そば、昔ながらの中華そばなど、数多くのラーメンがしのぎを削る土地である。
激しい戦いが繰り広げられる中、2017年にオープンし、いまだに行列の絶えないラーメン店がある。仙台駅のほど近く、南町通りに鮮やかなのれんを掲げるその店の名前は「だし廊」という。
入り口にはカラフルな暖簾がはためく
タウン誌に掲載されることも多く、店名を耳にしたことのある人も多いだろう。「ミシュランガイド宮城2017」においてミシュランプレートを獲得しただし廊は、店外から眺めても「本当にラーメン店?」と思うほどに洗練されている。
ラーメンを食べるだけではなく、なにかプラスアルファの体験ができそうだ。心を躍らせながら店内に足を踏み入れた。
だし廊店主のおすすめは「貝だし塩そば」
JR仙台駅から徒歩10分、仙台市地下鉄・青葉通一番町駅から4分ほど歩いたところに「だし廊」はある。
全体的におしゃれで、カフェのような佇まい
モダンな雰囲気の店内
入り口を入るとすぐに食券機がある。
飛魚だしや貝だし、鶏だしなど、 “だし”にこだわりあり
15時までは昼メニュー、15時からは夜メニューとなる。夜にしか食べられないメニューもあるので、いろいろなラーメンを楽しめるのがうれしい。
昼メニューのラインナップ
醤油や塩など基本はスタンダードなラーメンでありながら、「飛魚だし」や「貝だし」などいずれも個性的だ。どのメニューをいただこうか迷ったので、店主であり創業者である代表・原田佳和(はらだ・よしかず)さんにお話を伺った。
店主の原田佳和(はらだ・よしかず)さん
——一番人気でおすすめのラーメンはどれでしょう?
どのメニューも人気に特別な偏りはないのですが、貝がお嫌いでなければ、貝だし塩そばはいかがでしょうか。シンプルな塩味なので、「だし廊」の最大の特徴でもあるだしの風味をよく味わっていただけると思います。
——では貝そばに、熟玉を乗せたものにします!
だし廊の、至高の「だし」
ここで貝だし塩そばがやってきたが、まずその美しい盛り付けに驚いた。
まさに芸術の域
さっそくスープを一口すすると、あまりの衝撃に思わず叫びたくなった。貝の風味が染みわたる……というより、駆け抜ける。優しいはずの貝のうまみが濃厚で、深く、ぞくぞくと口の中に広がっていくのだ。
貝の強烈な旨味、刻んだ赤玉ねぎ、ピンクペッパーの奇妙な調和
——すごい。こんなに貝のだしが効いたスープははじめてです。貝は何を使っているんですか?
あさり、しじみ、ホタテ、ムール貝で作っています。複数の貝を使うことで、味が多層的になっていると思います。
——だからこれだけ濃厚なんですね。
トッピングの中で目立つのはこのムール貝
——貝殻の中にミソのようなものが乗ってますよね。これ、スープと一緒に口に含むとムール貝の風味が爆発します。ムール貝をペーストにしたものですか……?
はい、スープを取った後のムール貝のむき身に、ドライトマトやトリュフのオイルを合わせ、ペースト状にしたものです。味変的に使っていただけます。
平打ちで、きしめんのような麺
——ラーメンで平打ちの麺ってあまり見ないですよね。パスタみたいです。
はい、平打ちの太麺を自家製で作っています。この形だとスープがよく絡みます。また、少し時間が経ってスープを吸っても、伸びたようにならずフィットチーネのようにもちもちとおいしく召し上がれます。ゆっくり味わえるタイプのラーメンなんです。
3種類のチャーシューがトッピングされている
——これは豚バラと……あとは何だろう? 全部違う味でおいしいです!
チャーシューは、豚バラ、豚肩ロース、鶏胸肉を使っています。豚バラは、醤油と香味野菜などで味付けし、圧力鍋でやわらかく仕上げたもの。豚肩ロースは低温調理でゆっくりと作っており、肉の旨味がわかるように醤油をほんのりと効かせてあります。鶏胸肉も低温調理で時間をかけて仕上げていて、塩味と生姜の風味を効かせたさっぱりした味付けにしています。
丸ごとひとつ付いてくる味玉は、半分に割るとほっくりとろり
——トッピングもすべて自家製ですか?
——スープ、麺、トッピングがすべて自家製、大変なのでは……
はい、たしかに大変です(笑)。でも、外注しても結局こだわるのであれば、外注先と細かくコミュニケーションをとることで手間暇がかかってしまいます。それなら自分のところで作った方が楽かな、と思いまして。
1つひとつのラーメンへのこだわり
——貝だし塩そば以外のランチメニューの「飛魚だし醤油そば」と「鶏だし生醤油そば」の特徴も教えてください。
飛魚だし醤油そばは、鶏から取った澄んだ「清湯(ちんたん)スープ」に、飛魚のだしである「あごだし」を加え、醤油で味付けしたものです。鶏だし生醤油そばはまた少し違っていて、半がえしの生醤油だれに2種類の鶏だしを加えたものです。
「飛魚だし醤油そば 熟玉のせ(890円)」【画像提供:だし廊】
「鶏だし生醤油そば 熟玉のせ(790円)」【画像提供:だし廊】
——半がえし……とはなんですか?
醤油と砂糖を混ぜ合わせたものを「かえし」といって、これにだしを加えることでスープになります。醤油と砂糖を合わせて加熱するものを本かえし、加熱しないものを生返しと呼び、半かえしはこれらを混ぜたものになります。醤油の風味を残したまま、まろやかな味わいを楽しめます。
なにやら複雑な工程を経るなど、スープ作りに最大限こだわっているようだ。
——麺は貝だし塩そばと同じく平打ちの麺を使ってるんですか。
いいえ、鶏だし生醤油そばと飛魚だし醤油そばは中細のストレート麺を使っています。いわゆる「中華そば」のスタンダードを踏襲していますが、鶏だし生醤油そばには塩漬けのグリーンペッパーをあしらうなどし、食べ飽きずに最後までおいしく召し上がれるよう工夫しています。
夜メニューのラインナップ
——夜メニューの「根菜だし味噌ポタ」も気になります。
根菜だし味噌ポタは、ゴボウやにんじんなどの根菜類でだしをとった味噌ポタージュスープに、全粒粉で作った、風味の強い中太麺を合わせています。野菜だけで作られていながら濃厚な味わいがあり、加水率の高い麺で食べごたえもあるのが特徴です。煮卵とチャーシューを抜いたヴィーガンスタイルでの提供も可能です。
根菜だし味噌ポタ(ヴィーガン850円/ノンヴィーガン950円)【画像提供:だし廊】
——ラーメンごとの一工夫がすごいですね……! 海老だしのおそばもおいしそうです。
海老だし藻塩そばは、海老のだしに塩釜の藻塩を合わせたもの。海老のだしの風味が強いので、上品な塩味でバランスをとっています。麺は貝だし塩そばと同じ、平打ちの太麺を使っています。2017年のオープン当初は東勝山に店舗があったのですが、そこから現店舗に移転するときに作ったメニューです。
海老だし藻塩そば(850円)【画像提供:だし廊】
「だし」のルーツ
——原田さんの出身は広島なんですね。
はい、広島生まれです。大学の頃、仙台で4年間暮らしたことと、妻の実家がこちらだったこともあり、仙台でお店を持ちました。
——「だし」にこだわるようになったきっかけなどはあるんですか。
そうですね、実はだしにこだわるきっかけになったのは、ラーメンでなくうどんなんです。
店内にも掲げられたロゴは、「だしの雫」をモチーフにしたもの
——えっ、うどんなんですか!?
はい、うどんが大好きで、よく食べていました。地元のあたりでは、透き通った黄金色のだし汁が主流。自然と「だし」に興味を持つようになりました。その後ラーメン店でアルバイトをした経験から、だしをメインにしたラーメン店を作ろうと。
——だし廊、つまり“だしギャラリー”ですよね。店名は最初から決めていたんでしょうか。
そうですね、最初からだしをメインにすると決めていたので、他に出た店名候補を思い出せないぐらいです(笑)。だしソムリエの資格を持っているんですが、店づくりに生かしたいと思って取得したくらいで。
視座は「世界に向けて、日本のだしを」
さまざまな受賞歴
——ミシュランプレートを獲得されていますが、どのような経緯で審査が行われたんですか?
覆面の調査員の方がいらしたようなんです。ずいぶん小ぎれいな、きちんとした人が召し上がっているな……と思ったら、あとあと審査員だったということがわかった……という感じでした。
——認定となったときは、周囲の反応はどうでしたか?
うれしかったですし、お祝いの声もいただきました。でも、それでお祭りのようになるということではなかったですよ。すでにさまざまな方に来ていただいていましたし、外国の方にも来ていただいていたので。
——海外のお客も多いんでしょうか。
はい、多いですね。対応しやすいよう、英語のメニューを用意しています。海外旅行客の多いシーズンには毎日のように海外の方にいらしていただいていました。
おしゃれな店内は「世界」を意識したもの
——店内がとてもおしゃれなのも、海外の方を意識したものなのでしょうか?
そうなんです。最初は、だしということで和風にすることも考えていました。でも、いずれは海外展開していきたいと思っていて、NYのカフェバーのような雰囲気に。海外の方々に日本の「だし」文化を輸出していければと思っています。
だし廊は女性からも人気のラーメン店
——どのメニューも、しっかり美味しそうなのに上品で、女性も楽しめそうなイメージです。お客は女性も多いですか?
はい、だし廊はだいたい5:5か、4:6で女性が多いですね。女性の方が複数人でいらしたり、ひとりでいらしたりもされます。
清潔なしつらえのテーブルサイド
——味が濃すぎたり、油っぽくなりすぎたりしていないので、いろんな年代の方から好まれそうですよね。
そうですね、男女問わずさまざまな年代の方に来ていただいています。もちろん学生のお客さまも多いですよ。がっつりこってりラーメンを腹一杯に……というスタイルとは違った楽しみ方をしてくださっていると思います。
この日は平日14時台だったのでスムーズに入店できたが、行列をつくる日も多い
——お店がいつでも混んでるイメージですが、入りやすいのは何時頃ですか?
通し営業なので、平日の15時〜17時は比較的スムーズに入れますよ。ありがたいことに、休日はどの時間帯も忙しくて……。平日のランチタイムもかなり混んでしまいます。
激戦区を生き抜く「だし廊」
「食事」に求める価値は人それぞれだ。お腹いっぱい食べたい人もいれば、いつもの味を求める人もいる。
「だし廊」の価値は、間違いなく「フレンチのような食体験を、ラーメンで味わえること」にある。洗練された店内、ていねいな盛り付け、意外性への驚き……。でも「ラーメンとしてちゃんとおいしい」という大原則は守られている。
それでありながら、決してハードルは高くない。まるで「町のフレンチ食堂」のような立ち位置だと感じた。うれしい食体験は、人の心を潤す。透き通った「だし」に浸り、心を潤されてみてはいかがだろうか。
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『だし廊』
・住所:宮城県仙台市青葉区一番町2-2-11 TKビル1F
・営業時間:11時00分~21時00分
※L.O.15分前、スープが無くなり次第終了
・定休日:年中無休
・駐車場:なし
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