仙台市太白区「長町ラーメン」はなぜこんなにも愛されているのか?
2020.04.02
長町ラーメンが忘れられない
人には誰しも忘れられない味がある。仕事で疲れた時など、ふとした瞬間に思い出す味だ。実家の母の味だったり、馴染みのあの店だったりさまざまだろう。今回は、筆者の「忘れられない味」に付き合ってほしい。それは宮城県仙台市太白区・向山にある「長町ラーメン」である。
向山にあるのが長町ラーメン本店だ
21年の歴史がある「長町ラーメン」は、すでにたくさんのメディア露出がある名の知れたラーメン店だ。それでも今回取材を申し込んだ理由は、ふたつの疑問をこの手で解決したかったからである。
「かのおが」をはじめ、多くのサイン色紙が飾ってある
仙台の朝の顔・本間ちゃんのサインも
まずひとつ目。さかのぼること十数年、中学生のわたしは親戚に連れられて長町ラーメンを訪れた。「親戚や親と外で食事なんか……」という時期にもかかわらず、その味に魅せられ、長町ラーメンであれば嫌々ながらも付いていった。思春期で生意気真っ盛りだったわたしがそこまで夢中になったのはなぜ? そして、21年もの間、このラーメンが長く愛されている秘密は何なのか?
忘れられなかったのはなぜなのか?
そしてふたつ目は、おそらく長町ラーメンを知る人なら1度は思ったであろう疑問だ。それは、向山にあるのになぜ長町ラーメンなのか——この疑問についても深掘っていく。
何年も温めてきた長町ラーメンへの思いを胸に、そのうまさとこだわりを解き明かすため、長町ラーメンの本店に向かった。
長町ラーメンへのアクセスは?
長町ラーメン本店は向山の麓(ふもと)にあり、仙台市地下鉄南北線「愛宕橋駅」からは徒歩7分ほど。オレンジ色に黒い文字で書かれた「長町ラーメン」の看板が目を引くため、場所に迷うこともない。
10台の駐車スペースがあるだけでなく、国道286号線を挟んで向かい側にはコインパーキングもあるので、車で来店するのにも困らないだろう。
店舗敷地内に10台分の駐車スペースがある
店の外には10席程度のウェイティングスペースがある。土日は行列ができることも珍しくなく、日によっては開店時に50人ほどが列を作ることもあるので注意が必要。
冬場はビニールで遮られたスペースの内側にストーブが設置される
こぢんまりとした店内は、木目調で統一された落ち着いた雰囲気。だが、けっして古臭くなく、清潔感と温もりがあるのも長く愛されている秘訣だろう。十数年前に訪れた時と変わらず、懐かしい雰囲気を感じられた。
カウンターが9席と4人がけのテーブルがふたつ
十数年前に来た時より広くなっている!以前はこの席がなかった……
お話に応じてくれたのは、長町ラーメンを運営する「株式会社すえひろ」の代表取締役・末永宏行(すえなが・ひろゆき)さん。
よろしくお願いします!
長町ラーメンが21年も愛されている理由とは?
——久しぶりに「長町ラーメン」を食べました。子どものころ食べた味なのでうれしいです。
ありがとうございます。子どものころに来てくださったお客さまが、大人になってお子さんを連れてくる……といったことも時々あるんですよ。21年もやっていると、親子2世代3世代で来てくださるお客さまもいらっしゃって。ありがたいことです。
——それだけ長く愛されているのは、ラーメンになにか秘密、秘訣があるからでしょうね。
——えっ、そうですか!?
お客さまからは、「長町ラーメンは食べた瞬間すごくうまい! というわけではないんだけど、あとからじわじわ食べたくなる」と言われることが多いですね。一発KOするほどのパンチ力はないけど、ボディーブローのようにいつまでも残り続ける味だと。
「ワンタンメン煮卵入り(900円/税別)」。この「煮卵+ワンタン」が最も人気のある組み合わせ
——だから、わたしも十数年の間、忘れられなかったんですかね……。
そうかもしれませんね。なので、これといった秘密や秘訣はなくて、「また長町ラーメンのあの味が食べたい」と思ってもらうことが大事。作っているラーメンは至極スタンダードなんですよ。
——スタンダードとはいえ、長町ラーメンの魚介系のしょうゆスープがこれまたおいしいんですよね。
ありがとうございます。スープは豚骨と煮干し、かつおぶしで取っています。豚骨だけでなく、煮干しとかつおぶしを使っているところが「長町ラーメン」らしさかなと思いますよ。
「煮干しとかつおぶしが長町ラーメンらしさ」の詳細はのちほど
——麺は昔から変わらずもちもちとした細麺ですね。
そうですね、まず細麺はすすった時の音がいいですよね。ズズッと小気味よくすすれる。長町ラーメンの麺のイメージは、カップラーメンの麺。細くて歯切れとのどごしがよく、万人に受け入れられるような麺です。そのイメージに近くなるよう、仕入れ先の製麺所にはかなり細かく注文をつけています。気圧や気温、湿度によって加水率を変えてもらっています。
細く歯切れの良い麺。思わず口の中にたくさん入れたくなってしまう
——かなりこだわりをもって作っていらっしゃるんですね。ワンタンもとろプリで大好きです!
ワンタンは仕入れた皮に干しエビと貝柱を包んでいます。ワンタンの皮も同様にあれこれ注文していますね。
とろプリなワンタン。味がしっかりしていて、これだけでご飯のおかずになりそう
ワンタンの具材は店舗で手づくりしている
——わたし、長町ラーメンの分厚くてしっかりした味のチャーシューが好きなんですよ。
ありがとうございます。チャーシューは1度味をつけた状態で丸めて蒸し、その後タレに漬け込んでいます。
——味をつけてから成形するんですね! だからあんなに味がしっかりしているのか……
そう、あとチャーシューが厚めなのは、もし自分だったら分厚いほうがうれしいから、ですね。
チャーシューは大きくて……
分厚い!
煮卵も2日使って味を染み込ませています。殻剥きもあるなど、かなり重労働なのですが(笑)、もし自分が食べるなら味がよく染みた煮卵のほうがうれしいな、と思って自家製で作っています。
とろっとろの煮卵
向山にあるのに、なぜ「長町ラーメン」?
——なぜ「長町ラーメン」は、向山にあるのに“長町”なのでしょう?
実は創業した時の店舗が、まだ旧駅舎の頃の長町駅前にあったんです。オープン前で店名もラーメンの特徴もまだ決まっていない状態で看板などをDIYしていたんですが、作業中に通りがかった方と「ここにできるのは、なんて名前のラーメン店なの?」「はあ、まだ決まってなくて」「なら、長町ラーメンがいいんじゃない?」なんて会話があって。それがきっかけですね。
——そんなエピソードが! では、先ほどおっしゃっていた「煮干しとかつおぶしが長町ラーメンらしさ」というのは?
店名を「長町ラーメン」に決めてから、「では、長町らしいラーメンとはどんなものだろう?」と考え、街ゆく人に「長町らしさ」のアンケートをとったんです。すると、多くの人が「かつおぶしの香り」と答えてくれて。
——長町らしさが「かつおぶしの香り」?
そう。確かに当時、駅前には立ち食い蕎麦店があって、駅を降りるとかつおぶしの香りがフワリと漂っていたんですよ。それもあってか、「長町=かつおぶし」のイメージがあった。
——なるほど。
あと、長町周辺はもともと魚商の町だったんですよ。閖上で取れた海産物を、漁師の奥さんが川ぞいに歩いて運んできては商いをする、みたいな。いまはだいぶ変わってしまいましたけどね。
よく見たら、壁の「お土産ラーメン」のチラシにも魚商のことが
お土産用に買える長町ラーメンは2食入りで550円
——すごい! 「長町の文化」を凝縮したラーメンなんですね。
長町も駅前がどんどん開発されて変わりましたよね。でも、この「長町ラーメン」がある限り、かつての長町駅前の雰囲気などは忘れられず残り続ける。駅前の開発に伴って、創業から5年ほどで向山に移転したのですが、長町という名前を冠するからには、そういうラーメンでありつづけたい……と思っています。
——ものすごい話を聞いてしまいました。味は当時から変わっていないように感じますが、変化しているところもあるんですか?
そうですね、基本は変えていません。もちろん原材料はよりよいものにグレードアップさせていますし、味にブレがないように調整はしています。
向山の本店のほか、長町ラーメン本町店もあり!
本町にある長町ラーメン
——現在、仙台市青葉区本町にも店舗がありますが、ラーメンは同じ味でしょうか?
はい、同じ味のものを出しています。メニューは少し違いがあって、本町店では担々麺などしょうゆ味以外のラーメンやチャーシュー丼などを出していません。オフィスワーカーが多いエリアなので、短い昼休みにもスムーズにお出しできるメニューをメインにしています。
「ワンタンメン(780円)」や「スーラーワンタンメン(800円)」「ネギ辛ラーメン(780円)」など、いくつかのメニューは向山にある本店のみ
ランチも、+150円の肉めし(小)は本町店でも食べられるが、BランチとCランチは本店のみ
ランチの「肉めし」は細かいお肉が混ぜ込まれた、胡椒の効いたご飯。小なのにボリューミー
——本町でも同じ「長町ラーメン」が食べれるんですね。オフィスワーカーの日々の活力になってるでしょうね。
生きる活力、元気を届けられるラーメンでありつづけたいと思っています。
ありがとうございました。これからもこの味を守り続けてほしい……
十数年ぶりに食べた長町ラーメンは、あのころと変わらない味だった。「いつでも変わらぬあの味を」の要求に21年も応え続けるのは、けっして容易なことではないはずだ。末永さんいわく、「秘密も秘訣もない」と言っていた長町ラーメンだが、客目線に立った徹底したこだわりはもちろん、職人の矜持(きょうじ)を感じずにはいられなかった。だからこそ、中学生のだった筆者も嫌々ながら付いていったし、21年も愛され続けているのだろう。
「あの味」を思い出してしまったからには、定期的に長町ラーメンに行って明日への活力をもらうことにしよう。
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『長町ラーメン本店』
・住所:宮城県仙台市太白区向山4丁目26−19
・TEL:022-263-1842
・営業時間:[火~金]11時30分~15時30分/17時30分~21時00分 [土・日・祝]11時30分~21時00分(スープがなくなり次第終了)
・定休日:月曜日(祝日の場合は翌日)
・駐車場:10台
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