仙台市が「自転車保険の加入」を義務化!罰則や加入方法など市役所に聞いてきた
2019.05.31
人ごとではない「自転車事故」
高齢者による自動車事故があいつぐなか、自転車事故も後をたたない——。
2017(平成29)年12月、神奈川県の当時20歳の女子大学生が自転車で走行中、歩行していた77歳の女性と衝突。歩行中の女性が死亡する痛ましい事故があった。自転車を運転していた女子大学生は左手にスマートフォン、右手に飲料カップを持ち、左耳にはイヤホンをつけていたという。
自転車事故は人ごとではない
2013(平成25)年には、神戸市で当時小学5年生の運転する自転車が、歩行中の62歳の女性に衝突。この事故により、歩行していた女性は寝たきりになり、自転車を運転していた小学生の母親に対し、およそ9500万円の賠償が命じられた。ケタが半端じゃない……。
身近に起こりうる自転車事故により、高額な賠償命令が出されるケースは決して珍しいことではない。こういった背景もあってか、仙台市は「仙台市自転車の安全利用に関する条例」を制定し、2019(平成 31)年 4月1日より自転車損害賠償保険等への加入を義務とした。
「乗るなら保険に入るべし! 交通ルールを守るべし!」
よく分からないから市役所に聞きにいこう
加入する保険内容に決まりはあるのか、そもそもどうやって加入すればいいのか。そして、加入しないことによる罰則はあるのか——気になることをすべて解決するため、「仙台市市民局 自転車交通安全課」に行ってきた。
いざ、自転車交通安全課へ
取材に対応してくれたのは、「仙台市市民局 生活安全安心部 自転車交通安全課」で主事を務める佐藤真澄(さとう・ますみ)さん。残念ながら顔出しはNGだったが、さっそく、レッツヒアリング〜ゴ〜ゴゴ〜!
まずは「自転車損害賠償保険等への加入の義務化」について簡単に教えてください。
自転車に乗っているときに起こした事故で相手にケガをさせたり、最悪死亡させてしまったり……。そういった場合に相手方への損害賠償に対応できる保険などに加入していただく、というのが義務となりました。
基本的には、仙台市内で自転車を利用する方全員です。仙台市内に住所がある方だけでなく、仙台市以外にお住まいでも、自転車で仙台市内に通勤・通学する方は加入する義務があります。未成年のお子さまの場合、その保護者の方はお子さまを対象とした保険に加入する義務があります。
義務化されたのは、仙台市民だけではない
ねぇねぇ佐藤さん、いじわるな質問してもいいですか?
たとえば、富谷市や名取市などほかの市町村に住んでる人が、一瞬だけ自転車で仙台市を通過する場合はさすがに加入しなくてもいいですよね?
ダメなんですよ! 距離や時間に関係なく、仙台市内で自転車を利用する方は、み〜〜〜んな加入してください。もっというと、旅行で仙台市内を訪れてご自身の自転車を利用する方も、み〜〜〜んな対象になります。
仙台コミュニティサイクル「DATE BIKE」などでは、運営事業者が法人単位で損害賠償保険に加入しているので大丈夫
一般的には、相手にケガや死亡などといった損害を与え、損害賠償を負ってしまった際に保険金が支払われる保険のことを「損害賠償保険」といいます。
似たようなものに「傷害保険」っていうのもありますよね?
「傷害保険」は、ご自身がケガをしたときとかに医療費などが支払われる保険のことですね。
今回、加入が義務化されたのは「損害賠償保険」
どの保険に入ればいいの?
保険って、対物だと賠償補償額の限度額がいくら、対人だといくらってありますよね。仙台市としては「限度額がおいくら以上の損害賠償保険に加入してくださいねー」って決まりは設けてるんですか?
とくに設けていません。限度額が上がればそれだけ金銭的な負担も増えますので、ご自身の利用状況に合った保険に加入していただくのがベストだと思います。
じつは、仙台市が協定を結んで保険加入促進に連携、協力して取り組んでいる損害保険会社さんがあるんですよ。
仙台市が保険会社と協定を結んでいる保険商品
損害賠償額の限度額としては、1億円から高いところだと3億円くらいに設定されています。
加入した本人だけが対象になるものもあれば、家族全員が対象になる商品もあるんですね。
料金も年間で2000〜3000円って意外とお安いんですね。保険っていうからもっとお高いのかと思ってました。
これはあくまでも商品の一例です。この一覧では、傷害保険とセットになっている商品が多く、保険の料金は補償の範囲や内容によってさまざまですね。
詳細については、各保険会社に問い合わせを
いずれにせよ、このなかから探せば選びやすいですね。
そうなんですが、その前にしていただきたいことがあって……。じつは、「特約」という形ですでに自転車保険に加入している場合があるんですよ。
佐藤さんすいません。「特約」とか難しいワードは使わないでもらえますか(怒)?
失礼しました(汗)。たとえば、自動車保険や火災保険、傷害保険など、保険っていってもいろいろありますよね。自動車保険なら自動車事故が基本の補償内容になるんですが、内容を手厚くするためにプラスアルファの内容が付帯されているものがあるんです。
たとえば、飼い犬が他人に噛みついてケガを負わせたとか、自転車の事故で他人に損害を与えてしまった場合など。日常生活上で負った損害賠償責任をカバーするなどのオプションを付けられる仕組みがあります。それが、保険の「特約」と呼ばれるものです。
すでに加入している保険に「個人賠償責任特約」や「日常生活賠償特約」といった特約(※参照)が付帯していれば、自転車事故による損害賠償にも対応できるケースが多いと考えられます。
※「特約」の名称は保険会社によって異なる
もし、ご自身で加入していなくても、ご家族のどなたかが加入している場合もありますので、一度ご確認ください。もし加入していない場合は先ほどご紹介した保険のなかから選んで加入するのもひとつの手ですね。
すでに加入しているなんらかの保険に、自転車事故に対応できる特約が付帯されている(付帯できる)ケースもある
自転車賠償損害保険はコンビニでも申し込み可能
こういう保険って申し込むのがめんどうなんですよね。
郵送や直接窓口でっていうのもありますが、インターネットでも申し込めますよ。
まぁ〜、よくある申し込み方法だと思うんですけど、ぶっちゃけ重い腰が上がらないんですよね……。
なかには、コンビニエンスストアで申し込める保険もあるんですよ。
コンビニにチケットを発行する機械などがありますよね。それで申し込みをしてレジでお金を支払う、という流れです。
コンビニなら身近にあるので、かなりハードルが下がりますね。
ただし、コンビニで申し込める保険には年齢制限などが設定されていますので、お手続きの際は加入の条件をよく確認してください。
どうして義務化されたの? きっかけは?
やっぱり、全国的に発生している自転車事故の高額賠償例がきっかけで義務化されたんですか?
仙台市内でも自転車が加害者になる事故は多いんですか?
直近の状況をみると、年間30件ほど発生しています。
しかも、宮城県全体の自転車事故の約7割は仙台市内で起こってるんです。
それもありますが、宮城県の人口に占める仙台市の人口の割合(約5割)よりも高いことから、仙台市内に集中して自転車事故が発生している状況といえます。
※参照:宮城県警察公表資料
これまでは、自転車損害賠償保険についてどういう扱いだったんですか?
仙台市では加入を強制する決まりごとなどはとくになく、利用者の判断に委ねる形でした。
2019(令和元)年5月現在、「自転車損害賠償保険の加入促進」に関する条例を制定している自治体は全国で結構あります。宮城県内で義務化されているのは仙台市だけです。
仙台市は県内でも規模の大きい自治体なので、仙台市で自転車損害賠償保険等の加入を義務化したことで、ほかの自治体にも波及するような効果が生まれるといいと思いますね。
仙台市以外の自治体へ波及していくのだろうか?
加入しないと罰則はあるの?
今回、義務化されたわけですが、加入しないことによる罰則は設けてるんですか?
罰則などは設けておりません。というのも、罰則を設けて取り締まるためには、 保険に加入しているかどうかの状況を確認する必要がありますよね。
先ほど説明したとおり、自転車事故による損害を補償する保険のタイプはさまざまあります。自動車の自賠責保険と違って証書を必ず携行しているわけでもありません。道ゆく自転車利用者に「加入していることを証明してください」といっても、加入確認が難しいという事情もあります。
たとえ罰則がなくとも、保険加入は義務であり、必ず守っていただかなければいけないルールです。「市内で自転車を利用するときは、必ず保険に加入してください」と呼びかけています。
保険には、万が一のときにご自身の生活を守るという意味もありますが、被害に遭われた方がきちんと救済されるためにも必要なものなんです。かりに裁判所から高額な賠償命令が出ても、加害者に支払うための資力がなければ、被害者はどこからも賠償を受けられませんからね。
事故を起こした人が無保険だと被害者が救済されない、ということですね。
ですので、自転車利用者全員が保険に加入することで、自転車を利用する方もそうでない方も安心して暮らせる世の中にしたいと考えております。
自身はもちろん、被害者を救済するのが損害賠償保険なのだ
意外と知らない自転車のルール
突然ですが、自転車って歩行者と車、どっちの友だちかわかりますか?
急ですね(笑)。なんとなくですけど、「歩行者」じゃないんですか。
最初からノリノリです。自転車にも車にもタイヤがついてますよね。なので、自転車は車の友だちなんです。
車と友だちということは、自転車も車道を走らないといけないんです。
「自転車は車道が原則、左側通行です!」
でも、子どもが自転車で車道を走ったら危なくないですか?
13歳未満のお子さん、70歳以上の高齢者や一定の障害をお持ちの方は、自転車でも歩道を通行していいというルールがあります。
そういう決まりがあるんですね。でも、交通量が多い車道だと、自転車で走るの怖いんですよね……。そういえば、歩行者と自転車の標識がある歩道ってあるじゃないですか?
こんな標識を見かける歩道も
自転車は車道を走行するのが基本なんですが、こういった「普通自転車歩道通行可」の標識がある場所では、自転車も歩道を走行してもいいことになっています。ただ……
このマークがあっても歩行者が優先には変わりないので、歩行者に配慮していただく必要があります。
そうなんですね。知らずにびゅんびゅん飛ばしちゃってました。
普通自転車の歩道通行部分指定。この標示がある歩道を自転車で通行する場合、ラインの車道側を通行しなければならない
あと、「自転車専用通行帯」といって、普通自転車専用の通行空間として設けられた車線をご存じですか?
荒町通りにある「普通自転車専用通行帯」
それです。ここは車だけでなく、歩行者も通行してはいけません。
そうです。では、このマークは何を表しているかわかりますか?
仙台駅近くにある自転車専用道路
出た、問題形式(笑)。そんなのいいから早く教えてください。
すいません。ここは「自転車専用道路」といって、その名のとおり自転車が通行するために設けられた道路。ですので、普通自転車以外の車両や歩行者は通行できません。
努力義務となったヘルメットの着用
ところで、2019(平成31)年1月1日から自転車を利用する際は、ヘルメットの着用が条例で努力義務とされたんですよ。
身を守るヘルメットの着用が努力義務とされた
宮城県警が出しているデータだと、2018年中、宮城県内において自転車事故で7人の方が亡くなりました。そのうち、ヘルメットを被ってた方は1人で、残りの6人は被っていなかったんです。亡くなった6人のうち、4人の方はヘルメットを被ってたら負傷の程度を軽減できたんじゃないかといわれています。
「たられば」なので何ともいえませんが、その可能性もあったと思うとヘルメットの重要性がわかりますよね……。
自身はもちろん、未成年の子どもや70歳以上の高齢者などの家族に対しても着用させるよう努める必要がある
まとめ
「仙台市自転車の安全利用に関する条例」では、自転車を利用する方の責務として交通ルールを守ることや、歩行者への配慮に努めること、ヘルメットの着用や自転車の点検・整備に努めることなどを定めている。
交通ルールを守るなどして自転車を安全に利用していても、防げないこともある自転車事故。そういった万が一の際、自身はもちろん、被害者を救済するのが自転車損害賠償保険である。
「自分は大丈夫だから」という根拠のない思い込みはやめ、この機会に自転車損害賠償保険について見直してみてはいかがだろうか。
取材協力
仙台市市民局
生活安全安心部・自転車交通安全課
http://www.city.sendai.jp/soshikikanri/shise/gaiyo/soshiki/043/049.html
この記事を書いた人
幸谷亮
仙台が大好きすぎて「だてらぼ」を立ち上げたひと。雑誌編集部→雑誌編集部→2016年に独立。雑誌編集部時代に身につけた取材力を武器に、みなさんの気になるネタを全容解明します。
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