【怖い】仙台でも相次ぐクマ出没情報…遭遇しない為の「対策」と「撃退グッズ」とは
2022.01.18
実りの秋――それはクマが活発に動き始める時期でもある。全国的にクマの出没情報が相次ぎ、それは仙台市も例外ではない。山沿いはもちろん、住宅街などでもクマの出没情報が報道されている。
体感では、ここ数年でクマの出没数はぐっと増えたような気がするが、仙台のリアル事情はどうなのか。そしてもしクマと遭遇したらどう対処すれば良いのか。それぞれ仙台市と、クマ対策グッズを販売する株式会社壱岐(いき)産業に聞いてきた。
仙台市でクマの出没数は増えている?
まず、仙台市のクマの出没情報や、そもそも出会わないための対処法などについて、仙台市 環境局 環境部 環境共生課の川満尚樹(かわみつ・なおき)係長にお話を伺った。
――とくにクマが多く出没するのはいつ頃ですか?
一般的には、クマは12月から3月中旬まで冬眠に入ります。ですので、クマが出るのは4月から11月までです。なかでもとくに注意が必要なのが、里に山野草やタケノコが出てくる4月下旬~5月と、山に食べ物が少なくなる7~8月です。山で秋の実りが不作だと、冬眠前の9~11月にも多くのクマが人里に下りてくることがあります。
――環境省によると、2020(令和2)年のクマ出没数は過去5年間で最多だったそうですが、宮城県ではどうでしたか?
仙台市の2020年のクマ出没数は431件でした。直近の5年間で比較すると、2016(平成28)年の402件を超えて最多の出没件数となりました。
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仙台市のクマ出没数 |
2016年 |
402 |
2017年 |
145 |
2018年 |
214 |
2019年 |
211 |
2020年 |
431 |
――たしかに、2020年はクマが出た話を多く聞いた記憶があります。データを見ると、2021(令和3)年は9月の集計を終えた時点で仙台市におけるクマの出没数はおよそ100件。例年に比べてだいぶ少ないみたいですが、出没数が増減する理由は?
なんとなくですが、5年くらいの周期で出没数が多い年がくるようです。とくにクマが人里に下りてくる数に影響すると言われているのが、クマのエサとなるどんぐり類の豊凶状況です。例えば2020年は宮城県ではブナもミズナラも凶作でした。2019年はブナが凶作でミズナラが並作、2018年はブナが豊作でミズナラが凶作です。2016年もブナ・ミズナラともに凶作でした。
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ブナ |
ミズナラ |
2016年度 |
凶作 |
凶作 |
2017年度 |
凶作 |
豊作 |
2018年度 |
豊作 |
凶作 |
2019年度 |
凶作 |
並作 |
2020年度 |
凶作 |
凶作 |
※参照:環境省「堅果類の着花結実情報について(令和3年11月1日時点) 」
ブナなんかは、数年ごとに凶作と豊作を繰り返すと言われています。他の木にもそのような傾向があるのかもしれません。そのタイミングで、だいたい5年ごとに凶作が重なる時期がくるのでは、と。
――では、全国的に見るとばらつきがある?
そうですね。地域によって山にある木は違いますし、豊凶のリズムも異なりますから。近い地域であれば、だいぶ似た傾向が見られると思います。
――ここ数年でとくにクマが増えたような印象がありましたが、データ的にはそうでもない?
そうですね。年ごとの増減が大きいのでなかなか難しいですが、データ的には全国的にも緩やかに増えてきているとはいえそうです。ただこれはあくまで目撃情報なので、市民の関心が高ければその分多く情報が寄せられ、その分数字も大きくなります。
――なるほど。ここ数年はネットやスマホの普及で情報が拡散されやすくなったため、よりクマの出没状況に関心が寄せられるようになったとも考えられますね。ちなみに、仙台市で見られるクマの種類は?
本州に生息するクマはツキノワグマだけですので、仙台も例外ではありません。北海道に行くとヒグマですね。
――ツキノワグマの特徴を教えてください。
クマのなかでは比較的小さいクマで、体長は100~160cmほど、体重は50~130kgほどと言われています。全体的に黒っぽい毛色で、胸のところに三日月の模様が入っていることでよく知られていますね。
動物園で見かけるクマはキュートだけれど……
――小さめのクマなんですね。性格的には?
臆病な性格をしており、人を見ても基本的には襲うより逃げていきます。ただしあまりにも近くではち合わせしたり、人がクマに襲いかかるような素振りを見せたりすると驚いて、身を守るために襲いかかってくることがあります。
――クマに襲われたら死んだふりをする、と聞いたことがありますが……。
そうすると逆にクマが「なんだろう?」と興味を持って近づいてくる可能性がありますので、死んだふりはあまりおすすめできませんね。できれば、クマの顔をじっと見たままゆっくり後ずさりして距離を取ると良いでしょう。
――もちろん、走って逃げるのもダメですよね?
そうですね。クマは人間よりもずっと足が速いですし、急に走ることで驚かせてしまうかもしれません。また、逃げることで「人は弱いものだ」と認識してしまい、襲ってくる可能性もあります。
気になるクマ出没情報をチェックするには?
――これまで仙台市で、人がクマに襲われた事例はありましたか?
2016(平成28)年に数件、人がクマに襲われて怪我をしたことがありました。その後、人身被害は発生していません。
――2016年というと、とくにクマが多く見られた年ですね。その後、何か対策を講じたのでしょうか。
クマについて知ってもらって、事故が起こらないようにするため、2017(平成29)年から仙台市で「
クマ出没情報マップ」の運用を開始しました。これまでにクマが仙台市のどこで目撃されたかを、2017年度分まで遡って確認できます。
――クマ出没情報マップはどう見ればいいのですか?
年度別に、クマが出没したところにマークが表示されています。毎年よく出る場所、直近でよく出ている場所などが確認できますよ。
数年分をまとめて見ることもできる
画面左側のチェックを外せば、選んだ年度分だけ表示することも可能だ
――仙台市内でとくに多くクマが見られる場所や、住宅地近くで注意しなければいけない場所などはありますか?
東北自動車道の西側では、比較的どこでも目撃されています。住宅地近くで最近目撃情報があったのは、青葉区水の森にある水の森公園の近くですね。そのほか、八幡から霊屋下、太白区の八木山など山に隣接した地域でも目撃されています。
――このほかに、仙台市としてどのようにクマの出没状況をアナウンスしていますか?
クマの目撃情報が寄せられたらまず、区役所の担当者が広報車で目撃現場へ向かいます。現地でクマが出た痕跡が残っているかを調べながら、必要に応じて「クマが出ました」とスピーカーで知らせて回ります。
――小学校から保護者に連絡がくることもあります。
クマの目撃情報が寄せられたらまず、区役所の担当者が広報車で目撃現場へ向かいます。現地でクマが出た痕跡が残っているかを調べながら、必要に応じて「クマが出ました」とスピーカーで知らせて回ります。
――小学校から保護者に連絡がくることもあります。
近隣の学校や保育所など子どもが集まる場所、町内会にも情報を提供しますので、そこから保護者の方へ連絡がいきますね。
──そういった取り組みもしているんですね。
はい。その後、区役所でまとめた情報を我々が受け取って、仙台市が行っているメール配信サービスの「クマ出没情報」に事前に登録されている方に、どこでクマが目撃されたかという情報をメールでお送りしています。山の近くにお住まいの方などは、登録しておいていただくと便利かと思います。
クマに出会わないための対処法
――ツキノワグマは積極的に人を襲わないとはいえ、会わないのが一番だと思います。そもそもクマと出会わないようにする方法は?
まずは自宅の近くにクマを呼び寄せないことです。庭にカキやクリなど実のなる木が植わっていれば、できるだけ早めに収穫することが大切ですね。また、庭に生ゴミを置いているなら、しっかりフタをして匂いが外に漏れないようにしたり、犬や猫など動物のエサを外に放置したりしないことも大事です。ほかにも、クマは蜂の子を食べますので、軒先に蜂の巣ができていたら早めに撤去するようにしてください。
――クマのエサになるようなものを自宅近くに置かない、ということですね。
そうですね。あとは、家の周りの草刈りをきちんとして、クマが隠れやすい環境を作らないことも大切です。
――なるほど。では山歩きをするときの対策としては?
熊鈴をつけて音を鳴らしながら、ラジオを流しながら歩くなどの方法があります。とにかく、人がいることをクマに知らせる。そうすればクマは臆病なので、わざわざ人に近づいてはきませんから。
「複数人で話しながら歩くのも効果的です」と川満さん
――よく、子グマがいると近くに母親がいるから近づかないようにと言われますよね。子グマが現れやすい時期はありますか?
基本的には、クマが活動する時期であればいつでも可能性はあります。クマは冬眠中に子どもを生み、冬眠から明けると一緒に穴から出て食べ物を探し始めるので、子グマは春から現れます。その後、母親と子グマは1年半くらい一緒に行動すると言われていますね。
仙台市におけるクマの出没状況や、クマに出会わないようにするためのあれこれなどを、環境共生課の川満さんに伺った。続いては泉区黒松にある、クマ対策グッズを販売する壱岐産業の長谷川嘉宏(はせがわ・よしひろ)代表取締役に、「クマと出会ってしまった場合にどうしたら?」について話を聞いてみよう。
10年ほど前からクマ対策グッズの取り扱いを開始
――壱岐産業がどのような会社なのかを教えてください。
当社は1983(昭和58)年に創業し、2023年で40周年を迎える会社です。現在は、取り扱っている商品のうち9割を安全用品が占めています。そのため取引先には、電気関係や情報通信、土木、建築などいろいろな工事に関わる企業が多いですね。
――安全用品というと、具体的には?
最近人気なのは「空調服」ですね。夏に熱中症予防のために着る、中にファンがついた作業用の服なんですが、こういった商品をお客さまのコーポレートカラーで作って販売したりしています。
秋冬の売れ筋商品はこちらの「あったかベスト」(14800円/税別)
首と背中にマイクロカーボンファイバーヒーターが内蔵されています。軽くて暖かく、薄いので作業服の中に着られるんです。
胸元のボタンを押すと発熱する。温度は3段階から選べる
――御社ではクマ対策グッズを扱っているそうですが、いつ頃から販売しているのですか?
もともとはハチの対策グッズを販売していたんです。山の中の作業では、スズメバチなどのハチに刺される被害が少なくないですから。で、ここ10年くらいで山の中で作業する人から、クマの目撃情報も多く聞くようになりまして。それで対策グッズの販売を開始しました。
「クマに出くわさないため」の商品ラインナップ
――基本的には、クマに出くわさずに済むのが一番だと思うので……まずは、クマに遭遇しないための商品について教えてもらえますか?
クマ忌避剤「熊にげる」という商品を取り扱っています。これは携帯用(2300円/税別)と設置用(1本300mlあたり5000円/税別)があり、中身はどちらもカプサイシン(唐辛子成分)と木酢液です。
こちらは設置用の「熊にげる」
「ジョロキア」という唐辛子が配合されている
――設置用はどのようにして使うのですか?
ボトルの両側にカッターナイフで切り込みを入れます。そこから匂いが出ますので、庭に置いたり、木にぶら下げたりして使います。
――フタを開けるのではなく、ボトルを切り裂いて使うんですね。
こちらは携帯用の「熊にげる」
――携帯用はどのように使うのですか?
携帯用には、「忌避剤本体」と持ち歩き用の「メッシュ袋」「説明書」が同梱されています。携帯するときは本体の袋に穴を開け、それをメッシュ袋に入れて腰やリュックサックなどに吊り下げて使います。
――携帯用の使用期限は?
設置用と同様に1~2ヶ月ですが、使わない期間は密封パッケージに保管することで有効期限を延ばすことができますよ。
パッケージで密封して保管するのがおすすめ
――クマ避けといえば鈴というイメージが強かったです。
熊鈴やスターターピストルなど、音を出してクマを近づけない商品も販売していますよ。山の中で休憩を取るとき、じっとしているので音が出ませんよね。こういうときがすごく危ないんです。なので、スターターピストルを一発撃ってから休憩に入るとより安心です。
「クマに遭遇してしまった」場合に使いたい、クマ撃退スプレー
――では、運悪くクマとはち合わせしてしまった場合におすすめの商品はありますか?
はい。「カウンターアソールト」というクマ撃退用スプレーがあります。「熊にげる」と同じように唐辛子成分が入っていますが、こちらの方がより強力ですね。
230g入りが8980円、290g入りが11500円で販売(いずれも税別)
――クマ撃退用スプレーはどのようにして使えばいいのでしょう?
安全弁を外してトリガーを引けば、殺虫剤と同じような感覚で噴射できます。範囲は5mくらいなので、クマがかなり近づいてきたところで顔を狙って噴射すると効果的です。
この白っぽい部分が安全弁
――5mというと、クマがかなり近づいてこないとダメですね。
そうですね。私も以前、山歩きをしているときにクマを見かけたことがあります。そのときは30mくらい先をわーっと走り去っていっただけでしたが、クマが急にこちらに襲いかかってきたら大変だなと思いました。
──実際にクマと遭遇したことがあるのですね。
はい。それ以来、山に入るときは欠かさずこのスプレーを持ち歩いています。糞が落ちていたりガサゴソ音がしたり、なんとなく獣の気配がするときは自分にスプレーがかからないように風上に立つようにして、安全弁を外していつでも撃てる状態にして歩いていますよ。
使うときは、一気に全部噴射するのがおすすめだ
――そういった心がけも大切なのですね。このスプレーの何がクマに効くんでしょう? 匂いですか?
匂いもそうですし、あとは唐辛子特有の刺激ですね。私も実際に噴射した霧に顔を近づけてみたことがありますが、ツーンとした不快な感じが半日くらい鼻の粘膜から取れませんでした。クマは人間より嗅覚が優れていますから、とても堪らないでしょうね。
――クマ撃退用スプレーや「熊にげる」がほしい場合は、どこから購入できますか?
当社HPの問い合わせフォームか電話、メール、FAXなどで購入いただけます。在庫に限りがありますので、まずは一度問い合わせいただければ確実ですね。
――ありがとうございました。
ここ数年でぐんと増えたように感じるクマの出没数だが、仙台市によると「過去と比較してもそれほど増えているわけではない」との回答だった。市民としてはひと安心だが、同時に「あくまで公表しているのは目撃情報の数で、実際のクマの頭数とはズレがある」ことも忘れてはいけないポイントだろう。
基本的にクマは臆病な性格で人を襲うことは少ないというものの、身を守るためなら話は別だ。仕事やハイキングなどで山に入る人、また山の近くに住んでいる人はとくに注意をし、「クマに遭遇しないため」の対策と「クマに出くわしてしまった場合」の対策をダブルで講じておくとより安心だ。
取材協力
仙台市環境局
環境部 環境共生課
取材協力
『株式会社 壱岐産業(いきさんぎょう)』
・住所:仙台市泉区黒松2-16-12
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この記事を書いた人
岩崎尚美
仙台を拠点に活動するフリーライター。生まれも育ちもだいたい仙台です。仙台の魅力をお伝えするため、頑張ります!
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