後編・仙台牛としてこの世に生を受ける子牛はいないって本当!?その真相を徹底調査

2020.12.23

国内トップレベルのブランド牛である「仙台牛」。

しかし、仙台市民でありながら仙台牛を食べたことがない人はもちろん、「仙台牛としてこの世に生を受ける子牛はいない」という事実を知らない人が多い。

前編では遠田郡にあるみやぎ総合家畜市場を取材し、仙台牛になるための子牛のセリの様子をレポートした。

後編となる今回は、子牛をセリで落札した肥育農家のその後を取材。子牛の肥育(食用にするために肉量を増やすこと)の様子や、いかに宮城県が良質な牛を育てるのに適しているのか——その実態を解明していく。

●先に前編を読みたいかたはコチラをクリック

仙台牛の肥育農家の元へレッツゴー

小牛田駅の画像

やってきたのは、仙台駅から45キロほど離れた場所にあるJR「小牛田駅」。そして、小牛田駅から歩くこと20分、JA古川に所属する千葉孝幸(ちば・たかゆき)さんの牛舎に到着した。

千葉さん、よろしくお願いします!

——千葉さんは42歳とお聞きしています。お若い方でびっくりしました! おひとりでやってらっしゃるんですか?

千葉さん
千葉さん
いえいえ、父親と母親と一緒に家族で経営しています。牛以外には米も作ってます。

大きな田んぼで米も作っている

——さっそく、牛舎の中を見せていただいてもいいですか?

千葉さん
千葉さん
どうぞどうぞ。

もぉぉぉ〜〜〜〜〜〜

——何頭くらいの牛を肥育しているんですか?

千葉さん
千葉さん
80頭くらいです。毎月セリでだいたい4頭の子牛を買って、4頭を出荷しています。

千葉さんも第1回目の記事で紹介した「みやぎ総合家畜市場」で行なわれる子牛市場で落札しているそう

——セリの時は、名簿を見て目星をつけたら実際に下見して入札する子牛を決めるんですよね。

千葉さん
千葉さん
そうですね。もちろん名簿で血統などはチェックしますが、私の場合は、セリがはじまる1時間くらい前に行って、その日セリに出される子牛を全部下見するんです。で、形や体高などを見てバランスのいい牛を選んでます。それで予算と合えば入札、落札する感じですね。

良質な牛を育てるためにきれいな状態をキープ

前編では、子牛市場で子牛を落札して肥育をしても、5割程度しか仙台牛の称号を得られないことを伝えた。

そんななか、千葉さんが所属するJAグループ肉牛担い手組織の『仙台牛レボリューションズ』は、2020(令和2)年2月に行なわれた共進会で48頭中35頭が「A5」に格付けされ、仙台牛率は79.2%にも達した。

その35頭のなかでも、千葉さんが育てた牛が「チャンピオン賞」を受賞するなど高い評価を得ているのだ。千葉さんの牛舎では、いかにして良質な牛を育てているのだろう。

千葉さん
千葉さん
まずは、牛がストレスを感じないようにきれいな状態をキープするようにしています。

千葉さんの朝は掃除からはじまる

千葉さん
千葉さん
牛は昼間、寝て過ごすんです。でも、小屋が汚れていたりすると、牛にとってストレスで寝れないんですよね。

人間と一緒で、食っちゃ寝すればそれだけ大きく育つそう

千葉さん
千葉さん
下に稲わらなどを敷いてるんですが、20日に一度、全部取り替えています。取り替えた稲わらなどは捨てず、米の肥料として使っています。

20日に一度、稲わらなどを総入れ替えし、牛にストレスをかけないよう細心の注意を払う

——牛って意外とデリケートなんですね。

千葉さん
千葉さん
そうですね。あと牛って黒くて太ってるので暑さに弱いんです。なので、とくに夏なんかは牛舎内の温度が上がり過ぎないように扇風機を使って、換気のいい状態を作るようにしています。

天井には扇風機も完備

千葉さん
千葉さん
あと、牛が自分で押したら水が出てくる装置がついているので、いつでも新鮮できれいな水が飲めるようにもしています。

しゃもじみたいな部分を押すと水が出てくる

地の利を生かした餌も必要不可欠

——餌は何を食べさせてるんですか?

千葉さん
千葉さん
主食は稲わらです。うちは米も作ってるので、自前の稲わらを使っていて。稲刈りした後、雨にあたって濡れていないきれいなものを集めてるんです。やっぱりきれいな稲わらは牛もおいしく食べてくれますからね。

おいしそうにむしゃむしゃ

千葉さん
千葉さん
宮城県は米どころということもあって、稲わらの産地なんですよ。

稲わらだけで1頭あたり1日に2キロほど食べるそう

千葉さん
千葉さん
宮城県は秋の降水量が少ないですよね。秋晴れが続くので、良質な稲わらが生産できるんです。

——気候も大事な要素のひとつなんですね。稲わら以外には何を食べるんですか?

千葉さん
千葉さん
配合飼料といって、米やトウモロコシ、麦などが入った餌を食べています。

これが配合飼料

——お米も入ってるんですね。

千葉さん
千葉さん
そうですね。お米を入れた配合飼料を食べることで、牛の脂が溶けて口当たりの良いお肉に仕上がるんです。これがうちの特徴でもありますね。

千葉さんの田んぼでとれた米を使用している

千葉さん
千葉さん
宮城県で育った牛を買って、宮城県の飼料で肥育する。「宮城生まれ宮城育ち」っていうのをうちではこだわってやってますね。

生粋の宮城っこだもぅ

——千葉さんからお話を聞いてると、牛たちへの愛情をひしひしと感じます。

千葉さん
千葉さん
牛はしゃべれないので、そんななかでも牛が望んでいる通りにしたいんですよね。うちにいる間はストレスなくのびのび育ってほしいなって。

——確かに、言葉が通じないので難しいですよね。

千葉さん
千葉さん
そうですね。なので、調子がいいのか悪いのか、牛の行動を常に見てあげないといけないんです。

牛の様子を見るのも大事な仕事のひとつ

——行動で分かるものなんですね。

千葉さん
千葉さん
分かりますね。たとえば、餌をあげても食べにこないとか、ずっと下を向いたまま動かないとか。ちょっとした違いを察知して、不調だと思ったら早めに治療をしてもらわないといけないんです。

——気が抜けないですね。

千葉さん
千葉さん
そうなんです。基本的には365日、牛を観察してあげないといけないので出かけるのも難しいくらい。なので、好きじゃないと続けられない仕事ですね。

手間暇かけて20ヶ月ほど肥育

こうして千葉さんのような肥育農家によって20ヶ月ほど育てられた牛は、食肉市場に出荷される。

その後、枝肉取引規格という日本全国共通の基準に基づいたランク付けでA5・B5と評価された食肉だけが「仙台牛」の称号を手に入れるのだ。

ちなみに、松坂牛や近江牛などのほかの有名ブランド牛は、「A4」や「A3」などでもブランド牛として認められている。そんななか、最高ランクの「A5」と「B5」に限定しているのは、ブランド牛のなかでも仙台牛だけ。

つまり、仙台牛が間違いなく国内トップレベルのブランド牛なのだ。

最後の第3回目は、仙台市内で仙台牛をリーズナブルに食べられるお店を紹介します。合わせてご覧ください!

この記事を書いた人

幸谷亮

幸谷亮

仙台が大好きすぎて「だてらぼ」を立ち上げたひと。雑誌編集部→雑誌編集部→2016年に独立。雑誌編集部時代に身につけた取材力を武器に、みなさんの気になるネタを全容解明します。

関連記事